骨粗鬆症は、骨密度の低下によって骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。
日本には約1000万人以上の骨粗鬆症患者さんがいるといわれており、高齢になる程その数は増加する傾向にあります。
骨粗鬆症で恐ろしいのは、家のなかでつまずいて転ぶといったささいなきっかけから弱った骨を骨折してしまうことにより、要介護状態や寝たきりになってしまうことです。
今回は、ビタミンDやカルシウムのサプリが骨密度の維持や向上を通じて、更年期前女性の骨折予防に役立つのかについて、信頼性が最も高いとされるコクランレビュー論文1に基づいて解説したいと思います。
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なぜ更年期前の女性においても骨密度の維持が重要なのか?

骨密度が低下し骨折しやすくなる状態(骨粗鬆症)の患者は、8割以上が女性と言われています。
女性の骨密度は18歳前後にピークを迎え、その後40代半ばまで一定に保たれた後、低下していきます。
また骨粗鬆症性骨折によって、寝たきりや要介護になるなど深刻な状況を招き生活の質が著しく低下することにもつながるため、早い段階から骨密度の維持に務めることが重要になるのです。
女性は更年期になると骨粗鬆症リスクが急増する
なぜ更年期を迎えた高齢女性が骨粗鬆症のリスクが高くなるのかについて簡単に説明しておきます。
これは、女性は閉経後に女性ホルモン『エストロゲン』が激減することによって、骨の代謝バランス(形成と破壊)が崩れてしまうからです。2
骨の代謝バランスとは
骨は通常、骨を破壊する『骨吸収』と骨を新たに作る『骨形成』とがバランスを保ちながら、骨の形成と破壊が繰り返し行われています。

破壊しているのに「吸収」というのは少しややこしいですが。。。
このバランスが崩れて、骨を破壊する『骨吸収』が優位になった状態が続くことで、骨量が減少して骨が脆くなり、骨折しやすくなる状態につながります。(この状態を骨粗鬆症という)
エストロゲンと骨の代謝バランスの関係
骨を新たに作り出す骨形成を行うのが『骨芽細胞』で、エストロゲンはこの骨芽細胞を活発にする効果を持ちます。2
反対に骨吸収を担当するのは『破骨細胞』
つまり、高齢女性が骨粗鬆症になるリスクが高いのは、骨形成を行う『骨芽細胞』を活発にするエストロゲンが低下することによって、骨の代謝のバランスが崩れて骨吸収優位となることで骨量が減少していき、骨粗鬆症を発症しやすくなるのです。
なぜビタミンDとカルシウムなのか?

続いては、なぜビタミンDとカルシウムが対象とされ骨折の予防との関連が調べられているかについて簡単に説明しておきます。
栄養学的な観点からでは、カルシウムは骨を形成する栄養素そのものですね。

骨といえばカルシウムというイメージもあるかと思います。
一方、ビタミンDはカルシウムの吸収を促進するという効果があります。
つまり、骨形成に必要なカルシウムと、カルシウムの吸収に必要なビタミンDを取ることで骨形成を促し、骨密度の低下を防げる(=骨折予防に役立つ)と考えられるわけです。
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ビタミンDまたはカルシウムサプリは骨折予防に役立つのか?

結論、今回参照しているコクランレビュー1によると、
カルシウムまたはビタミンDのサプリ(単独または併用)の摂取は、健康的な更年期前の女性の全股関節または腰椎の骨密度をあげ、骨折予防に貢献しないだろう
とのことです。
以下で結果や研究について少し解説していきます。
研究の内容
研究の内容は以下のとおりです。
目的 | ビタミンDとカルシウムのサプリを併用または単独使用した場合に骨密度が増加し骨折リスクを低下するか、また副作用がないか |
手法 | RCTのメタ分析 |
対象の研究 | ・健康的な更年期前の女性を対象にした3ヶ月以上の期間行われたビタミンDまたはカルシウムの単独または併用摂取の比較を行なったRCT ・2022年4月12日までに発表された研究。 → 結果、合計7つのRCT(被験者合計941人)が対象 |
カルシウムサプリの場合
7つのうち4つの研究がカルシウムサプリと偽薬を用いた実験が行われ、カルシウムグループは138人、偽薬グループは123人(平均年齢は18.0~47.3歳)が参加。
そのうち、3つの研究では12ヶ月後、1つの研究では6ヶ月後に全股関節または腰椎の骨密度(BMD)にカルシウムサプリメントがほとんどまたは全く影響を与えない可能性があることが示されました。
エビデンスの確実性としては、研究間で結果が一致しておらず(I² = 71%)、低い確実性のエビデンスとして分類されています。
ビタミンDサプリの場合
ビタミンDサプリについては、2つの研究がビタミンDとプラセボ(偽薬)を比較し、ビタミンDグループには110人、プラセボグループには79人(平均年齢は18.0〜32.7歳)が参加しました。
これらの研究は、異なる方法でデータが報告されているために、結果を一貫して比較することができなかったため、研究間の結果を統合しての結論を出すことができないとしています。
ただし、対象となった個々の研究では、ビタミンD群とプラセボ群との間で腰椎BMDに違いはなかったと報告されていたようです。
カルシウムとビタミンDサプリ併用の場合
カルシウムとビタミンDサプリの併用については、2つの研究でサプリと偽薬を比較。
サプリグループは合計271人、偽薬グループは合計270人で平均年齢は18~36歳となっています。
これらの研究についても、測定分野が異なるため(1つは全股関節の骨密度、もう1つは腰椎の骨密度)となったため、統合結果を出すことができないとしています。
個々の研究の結果にフォーカスした場合でも、グループ間に違いはなかったようです。
ビタミンDやカルシウムサプリは、更年期前女性の骨折予防には役立たない可能性:まとめ
まとめ
- 更年期女性はホルモンの関係で、骨粗鬆症リスクが上がる
- 骨粗鬆症性の骨折の生活への質の影響は深刻で、早い段階からの対処が必要
- ビタミンDやカルシウムは骨密度を上げるために重要な役割を果たす
- そのため、サプリによる摂取が骨折リスク低下に役立つかを調査
- 現在ある研究の結果、更年期前女性の女性では、サプリを摂っても摂らなくても骨密度の違いは見られなかった
骨粗鬆症は深刻な健康への影響を与えるため、早い段階から対処していくことが大切になり、その上で骨の形成に欠かせないカルシウムやビタミンDをサプリで補給することによる予防効果が調査されていました。
結果としては、現段階では『カルシウムまたはビタミンDのサプリ(単独または併用)の摂取は、健康的な更年期前の女性の全股関節または腰椎の骨密度をあげ、骨折予防に貢献しないだろう』となっているようです。
ただ、個人的には、ビタミンDが若年女性の骨折予防の効果はなさそうですが、多くの日本人がビタミンD不足または欠乏というデータもありますし、ビタミンDは健康との関わりも深いので、ビタミンDだけでも摂取しておくのも良いかと考えています。
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参考文献
1 Calcium and vitamin D for increasing bone mineral density in premenopausal women